パースデザイナー 海老澤拓也「バーチャルの世界に魂を込めて」
目次
ChatGPTで要約する
パース屋への道のり
三戸:
海老澤さんって、おいくつでしたっけ。
海老澤:
32歳です。
三戸:
もともとこういう分野に進むことを志していらっしゃったんですか。
海老澤:
自分の場合は、そもそもは絵を描きたくて、モード学園に入ったんです。
三戸:
モード学園なんですね!
海老澤:
そうなんですよ。学校入ったら、みんなデザイナー目指してやっていて、
その流れに乗ってインテリアデザイナーになりたいと思って3年間を過ごしていたんですけど、
就職活動をしているときに、この会社のことを知って、もともと絵を描きたかったわけだし、ここがいいかなと思って。
三戸:
インテリアデザインからパースの世界って、割と違う気がしますが・・。
海老澤:
そうですね、結局、会社に入ってから学んだ部分がほとんどですね。
お客さんと接する中でいろんなデザインが頭の中に蓄積されていって、
こういうのが今はやっているんだとか、
こういうふうに収めたらいいんだとかいろいろ勉強させてもらいました。
三戸:
何の分野でも結局は実務が人を育てるのかもしれないですね。
海老澤:
学校では精神論的なところを固めてもらって、技術は会社に固めてもらった感じですね。
パースデザインもコミュニケーション力がすべて
三戸:
そもそも弊社と海老澤さんとの出会いって、とにかくうまいパース屋さんを探していた光畑(当社代表)が、
ある日意匠計画さんのHPで海老澤さんが描かれたパースを見て、
「あっ!このパースがかっこいい!このパースを描いた人を出してくれ!!」
と問合せをしたことに始まりますよね。
※海老澤さんの超絶パース。当社HPのインバウンドページ用に描いてもらったもの。
現代の“TOKYO”をイメージしたステージパースです。
海老澤:
はい、そうでしたね。
三戸:
あの、カッコよさへのこだわりが尋常じゃない光畑が感じた「うまさ」っていったい何だったんでしょうね。
それってつまり、「うまいパースってなんだろう」ということなんですけど。
正確に空間が再現されていることではないですよね。
海老澤:
そうですね…。好みもあるとはいえ、やっぱり楽しい絵かどうかというのはひとつのポイントだと思いますね。
あとは、何を見せたいのかという意図、アピールしたい点が明確かどうか。
それからもっとも大切なのはクライアントとの十分な意思疎通がなされた結果の絵なのかどうか。
これが成立してるのが「うまいパース」です。
三戸:
となると、コミュニケーション能力は相当に求められますね。
海老澤:
僕はそれがすべてのような気がしてますね。
すごく絵がうまくて、図面の再現性が高くても、エゴでやっちゃうと、
それはもう完全にNGで、技術に溺れてはいけないということなんです。
それよりもなによりも、その人に合ったオーダーメイドでやっていくことが大事。
三戸:
じゃあ、その人がどういうタイプかを最初に読み誤っちゃうと、
ちょっとつらい作業になっちゃいますね。
海老澤:
何でもくみ取ってやってもらうことが好きな人もいれば、
勝手に進めてほしくない人ももちろんいますからね。
僕はパース屋というものは、フィフティ・フィフティのパートナーだと思ってもらいたくて、
とにかく同じ目線になれるように極力頑張るんですよ。
そうすると変更があったとしても、お客さんの気持ちもむしろ理解できるようになって、
別に残業になろうが休日に作業があろうが気にならないですね。
三戸:
パースの需要は増えてきているという感じはありますか?
海老澤:
そうですね。ただ、簡単なソフトが出てきたり、アジアに目を向ければ、
うちより全然安くてハリウッド並みの絵を描いたりするパース屋が増えてきているのも事実です。
三戸:
人件費が安くて済む分、価格は抑えられますものね。
海老澤:
そうですそうです。だからこそ、コミュニケーションを大切にして、
かゆいところに手が届くというやり方をしていくのが一層大事になってくると思いますね。
近くにいること、話のニュアンスを汲み取ってくれることで差別化はしていきたいですね。
まずはぶっ飛んだものを作る
海老澤:
デザインするときって、いつもまず最初にぶっ飛んだのをつくるんです。
150%ぐらいの、絶対実現は無理だろうなというドリームプラン。
それをたたき台にして引き算をしていくと、意外に早くプランがまとまるんですよ。逆に、こんなもんかなという現実路線で行くと、こぢんまりとしたデザインになっちゃって、何だか予算ありきのつまらないものになってしまう。
三戸:
一回広げてから縮めていく、と。
海老澤:
そうですそうです。やりたいけど無理だよね、というところからまず行く。
三戸:
ドリームプランを元にみんなでワーワー言うのも楽しいですしね。
海老澤:
そうですね。今、マテリアルとか、グッズでもいろんなものがありますよね。
三戸:
そうですね。
海老澤:
そういうものすべてを私も把握しているわけではないから、一回広げてみんなの知恵や知識を集結させることで、一見不可能にみえたプランが実現可能になる場合もある。
最初から小さくまとまってしまうと、出来るはずだったプランを捨てているかもしれないんです。
最終的に150%に近いままで実現させることができることだってありますしね。
いっさいの妥協はしない
三戸:
先ほどコミュニケーションの価値についてうかがいましたが、
とはいえ最初に光畑が海老澤さんを発見したときって、
純粋に作品だけを見て判断したわけです。
そういう意味ではやっぱり海老澤さんの作品って何かしらパワーがあると思うんですけど、それってなぜだと思われます?
海老澤:
うーん、そうですね。精神論になっちゃうんですけど…、僕、魂込めてつくっているというのだけは自信をもって言えます。
いっさい妥協はしない。あるとするならたぶんそういうことかな。
三戸:
かっこいい!
海老澤:
それはもう楽しいからなんですよね。別に何の負担でもないんですよ。
三戸:
自分の仕事がすごく好きなんですね。
海老澤:
そうです。そして年々、どんどんどんどん好きになっていくという感じですね。
三戸:
なんででしょう。
海老澤:
経験を重ねて引き出しも増えてきて、
自信を持って提案できるようになってきたというのは大きな理由ですね。
それこそ新人時代からずっと背伸びしてやってきたのが、
たぶんここ4、5年で、実力が追い付いてきて…。
三戸:
なるほど。背伸びしながらやり続けてきたことに、
意味があったということですよね。
海老澤:
そうですね。自分のレベル通りの仕事だけをやっていると、
そこで満足してしまって成長できないし、たぶん楽しくないと思うんですよね。
ちょっと上というか、だいぶ上だった時もあるんですけど(笑)、
そういうレベルを狙って、ちょっとドキドキしながらでもやっていくと達成感が全然違いますね。
ちょっと無理かもというときに踏ん張れるかどうかでその先の成長はまったく変わってきます。
そんな感じで、常に全力ではやっているけれど80点の評価だろうなと思いながらきたのが、
今ようやく100点をもらえている自信を得られるようになって、それで楽しくなってきたんだと思います。
三戸:
次の10年がまた楽しみですね。
変な勾配の屋根
三戸:
たくさん引き出しを持っておくためのテクニックってあるんですか?
海老澤:
そうですね。簡単なところでは、雑誌や写真集をチェックすることですけど、
とにかく何事においても「意識して見る」というのは一番大事ですね。
お店に行っても、壁と天井の収まり方とか、腰壁の色とか、鉄扉の色とかを、
どうやっているのかなという視点で見ています。
天井でも壁でも、何かポイントを決めて見ると、普段、気付かないところが見えるというか。
三戸:
じゃあ、お仕事のときじゃなくても、
例えばデートでちょっとおしゃれなところに行っても、
そういうところを見てしまうんじゃないですか?
海老澤:
そうなんです。もう職業病です。
三戸:
そういう意味では、あらゆる建物にヒントありますね。
海老澤:
そうですね。
三戸:
お店だって美術館だって。
海老澤:
はい、どこでも。オフィスもやれば、不動産の内装とか、
あとは受付周りとか、本当にいろんな仕事が来るので、
どこに行っても勉強ですよね。ああいう角とか、やっぱり見ちゃうんですよね。(※会議室の天井を指さす)
三戸:
角?角が気になるんですね(笑)
海老澤:
角って、結局、何かと何かの変わり目っていうか、
“収まり”じゃないですか。収まりは気になりますね。
三戸:
そんなこと私は気にしたこともなかったけれども、
無意識のうちに“収まっている”ことへの気持ちよさは感じているのかしら。
※海老澤さんが好きな“壁と天井の収まり”。
うーん、よくわかりませんが…
海老澤:
そうだと思いますよ。安心感があるんですよね。
あ、ちゃんと支えているなという、梁も柱も崩れてきたりはしないなという安心感があるじゃないですか。
三戸:
普通の人は意識してそういうふうには見てはないけど、
それがおかしいと、見てて何となく不安になるということなんでしょうか。
面白いですね。私の見ている世界と海老澤さんの見ている世界はたぶん全然違うんでしょうね。
海老澤:
そうですね。普通の人には、
収まりがいいものを見たときの幸せはたぶん味わえないと思うんです(笑)。
三戸:
どんな建物が好きなんですか。
海老澤:
そうですね、やっぱり変わっているのが好きですね。
変な勾配の屋根とか。
三戸:
変な勾配の屋根。
海老澤:
何でこういうデザインにしたんだろうとか意図を考えたくなるんですね。
「なぜだろう?」って。まあ、分かんないで終わるんですけど。
三戸:
街を歩いてても飽きないですね。
海老澤:
そうですね。自分は楽しいですけどね。共感する人は少ないですね。
三戸:
ちょっとしたオタクだなって、今、思いました。でもオタクであることは素晴らしいことですよね。
海老澤:
そうですね。
その人を好きになればいい仕事が出来る
三戸:
海老澤さんが仕事をする上で大事にしている哲学はありますか?
海老澤:
常日ごろ意識しているのは、とにかく“要点をつかむ”というところですね。
さまざまな無駄なものに引っ張られていくと、
いくら頑張っても全然ニーズと異なるものになるので、やっぱり要点をつかむ努力は大事です。
三戸:
そういうのって、どうしたら身に付くんでしょうか。
海老澤:
持論なんですけど、それはその人を好きになることですね。
好きになって感情移入して、何を考えているのかを理解しようとすること。
無口な人でもおしゃべりな人でも、どんな人にも仕事に対する熱はあるわけで、
その熱をどこに向けている人なのかというのが分かるようになれば、
自ずと芯は見えてくると思います。
仕事だと割り切って表面上のサバサバした付き合い方をしていてはそこまで見えないし、そうなると芯が見えてこない。
三戸:
好きな人と仕事ができれば幸せですしね。
海老澤:
そうですね。そうやって芯を捉えられるようになった僕のお客さんって、
あんまりしゃべらなくなってくるんですよね。
話さなくても僕がきちんと理解するから。
安心して頼ってもらえる感じがしてとても嬉しいですね。
三戸:
一緒に仕事をする人のことを好きになって、
喜び合いながら仕事したいということですよね。
海老澤:
そうです、そうです。楽しく仕事するということですよね。
お客さんと笑い合いながら。で、場合によっては「アレンジでこういうのをやってみました」とか提案して、「これ要らねえよ」とか言われたりとか(笑)。
でもそういう関係性がうれしいんです。
気軽に「今からそっちに打ち合わせ行くよ」って言ってもらって、たとえそれが20時とか21時だとしてもまったく苦じゃないですね。
世の中に貢献している感じがするじゃないですか。
そういう気持ちがやりがいにつながるんですよね。
三戸:
自分がやっている仕事で、少なくともこの人は喜んでくれるというか、
一人でも賛同者がいると思えるのは本当にうれしいことですよね。
(終)